名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)1784号 判決 1971年5月11日
主文
別紙目録(一)記載の土地につき原告五味卓治が六分の二、同藤波フクヨ、同山田幸子、同園田タチ、同加藤武美が各六分の一宛の共有持分権を有することを確認する。
別紙目録(二)記載の土地につき原告五味卓治が所有権を有することを確認する。
別紙目録(三)記載の土地につき原告五味卓治が三分の一の、同藤波フクヨが三分の二の各共有持分権を有することを確認する。
被告広川良平は別紙目録(一)記載の土地につき原告五味卓治に対して持分六分の二について、同藤波フクヨ、同山田幸子、同園田タチ、同加藤武美らに対して持分各六分の一宛について、それぞれ真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
被告小林龍夫は原告五味卓治に対し別紙目録(二)記載の土地について真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
被告小林一夫は別紙目録(三)記載の土地につき原告五味卓治に対して持分三分の一について同藤波フクヨに対して持分三の二についてそれぞれ真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実
一、原告ら訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告ら訴訟代理人は「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。
二、原告ら訴訟代理人は請求の原因として次のとおり述べた。
(一) 原告五味卓治は昭和四三年六月二七日に訴外小林幸子所有にかかる別紙目録記載の各土地(以下本件(一)(二)(三)の土地という)を名古屋地方裁判所岡崎支部における強制競売により代金六〇万六、〇〇〇円で競落してその所有権を取得し、同年七月二二日本件土地について所有権取得登記が経由された。
(二) 同原告は昭和四三年八月八日本件(一)の土地について、原告藤波フクヨ、同山田幸子、同園田タチ、同加藤武美、訴外山王藤子に対し、各六分の一宛の持分権を売り渡し、同年同月九日その旨の持分移転登記を経由した。
その後原告五味卓治は、昭和四五年五月一二日、右訴外人の本件(一)の土地についての六分の一の持分権を買受けた。
(三) 原告五味卓治は、昭和四三年八月八日本件(三)の土地について同藤波フクヨに対し三分の二の持分権を売り渡し、同年同月九日その旨の持分権移転登記を経由した。
(四) しかるところ被告広川良平は本件各土地の登記簿上の所有名義は訴外小林幸子となつているが、右は同被告と右訴外人の通謀虚偽表示によるものであり、本件各土地の真実の所有者は同被告であるとの理由で名古屋地方裁判所に右訴外人を被告として真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記手続を求める訴を提起し、その旨の判決を得た。
そして同被告は原告らが右事件の口頭弁論終結後の訴外小林幸子の承継人であるとして名古屋地方裁判所から承継執行文の付与を得て、本件(一)(二)の土地について昭和四三年九月一六日、本件(三)の土地について同月一九日にそれぞれ所有権移転登記を経由した。
そして同被告は本件(二)の土地について昭和四四年五月六日付売買を原因として同月一三日被告小林龍夫に所有権移転登記を経由し、また本件(三)の土地について同月六日付売買を原因として同月一三日同小林一夫に所有権移転登記を経由した。
(五) しかしながら、右の承継執行文の付与は違法であるから、被告広川良平の経由した右の登記は無効でありこれを前提とする被告小林龍夫、同小林一夫の各登記も無効である。
1 本件各土地についての前記競落の前提となつた強制競売申立登記は昭和四二年八月二九日になされている。したがつて対外的には、すくなくともこの時において所有者であつた小林幸子の本件各土地に対する処分権は剥奪され、名古屋地方裁判所岡崎支部が右処分権を取得したものである。
右裁判所の処分権の取得は、所有権の取得ではないけれども、訴外小林幸子は少くとも右競売申立登記の時点以後においては、本件各土地を他に移転する権利がなかつたものであり、また同人からこれを取得した者はその取得をもつて右裁判所に対抗できないものというべきである。
右競売申立登記は前記判決の口頭弁論終結前であることは明らかであり、従つて右裁判所は右口頭弁論終結前に本件各土地の処分権を取得し、そして右裁判所の処分行為にもとづき、原告五味卓治が競落し、更に前記のとおり他の原告らが右同原告から本件(一)(三)の土地について持分権を取得したものである。
したがつて原告らは右判決の口頭弁論終結後に訴外小林幸子の地位を承継したものではないのである。
2 前記判決によると本件各土地は被告広川良平と訴外小林幸子の通謀による虚偽表示により右訴外人の所有名義となつていたものであるとされている。しかし通謀虚偽表示による意思表示の無効はこれをもつて善意の第三者に対抗できないものである。
したがつて仮に原告らが右口頭弁論終結後に本件各土地を取得したものとしてもその取得につき原告らが善意であるならば、被告広川良平は右意思表示の無効を原告らに対抗できないものである。
原告らは右裁判所の競売により独自に本件各土地の所有権を取得したものであつて、訴外小林幸子の前記訴訟物についての地位を承継したものとはいえない。
また原告らの本件各土地の取得経過からみると原告らは被告広川良平と訴外小林幸子間の前記虚偽表示については善意であつたものである。
(六) よつて原告らは被告に対し、請求の趣旨(主文)記載の判決を求める。
三、被告ら訴訟代理人は答弁として次のとおり述べた。
(一) 請求の原因(一)ないし(三)の事実は不知。
(二) 同(四)の事実は認める。
(三) 同(五)(六)の事実は争う。
(四) 執行文付与の適否は本件においては問題とされ得ない。
右の適否は執行文付与に対する異議においてのみ主張されるべきものである。
また原告らが被告広川良平と訴外小林幸子間の判決の口頭弁論終結後の承継人であるから、被告らにおいて本件各土地についての右訴外人の経由していた登記が同被告と右訴外人の通謀虚偽表示であつたことを主張立証する必要はない。
四、立証(省略)
理由
一、(一) 成立につき争いのない甲第一号証、甲第三号証の一ないし三、証人小林幸子の証言、原告五味卓治、被告広川良平各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、訴外宮川敏子は訴外小林幸子に対して債務名義(手形金請求事件の確定判決)を有していたこと、訴外宮川敏子は訴外小林幸子に対して昭和四二年八月二八日頃訴外小林幸子の所有名義に登記されていた本件各土地について、名古屋地方裁判所岡崎支部に対して強制競売の申立をなし、同日同裁判所からその旨の決定を得て同月二九日本件各土地につきその旨の登記を経由したこと、原告五味卓治は、昭和四三年六月二七日同裁判所の競落許可決定により、本件各不動産を競落し、同年七月二二日本件各不動産について所有権取得登記を経由したこと、その後同年八月八日付売買で原告五味卓治は本件(一)の土地についてその持分六分の一宛をその他の原告ら及び訴外山王藤子に売り渡し同月九日その旨の登記を経由し、昭和四五年五月一二日原告五味卓治は訴外山王藤子の持分を買受けたこと、更に同四三年八月八日付売買で原告五味卓治は本件(三)の土地についてその持分の三分の二を原告藤波フクヨに売り渡し、同月九日その旨の登記を経由したこと、以上の事実が認められ他に右認定に反する証拠はない。
(二) 次に成立につき争いのない甲第二、六号証、証人小林幸子の証言、被告広川良平本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると被告広川良平の破産管財人であつた訴外大〓錥子及び浅野隆一郎は、訴外小林幸子に対して本件各土地につき経由されていた右訴外人の所有権取得登記は被告広川良平が他の債権者の追及を免れるために右訴外人の名義としておいたもので虚偽仮装のものであることを理由として本件各土地の所有権にもとづき右土地について所有権移転登記手続をなすべき旨を求める訴(当裁判所昭和四二年(ワ)第二二〇六号事件)を提起し、当裁判所は右事件について昭和四三年四月一七日口頭弁論を終結して同月二六日その旨の判決(欠席判決)を言渡し、右判決はその頃確定したこと、被告広川良平に対する破産事件は昭和四四年四月頃強制和議手続により終結したこと、以上の事実が認められ他に右認定に反する証拠はない。
(三) しかして右確定判決について当裁判所は原告五味卓治に対して承継執行文を発し、これにより、本件(一)(三)の土地について昭和四三年九月一六日、本件(二)の土地について同月一九日にそれぞれ被告広川良平に所有権移転登記が経由されたこと、昭和四四年三月一三日に同月六日付売買を原因として本件(二)の土地について被告小林龍夫に、また本件(三)の土地について同小林一夫にそれぞれ所有権移転登記が経由されていることは当事者間に争いがない。
二、以上の事実関係にもとづき被告らの経由した右の各登記の効力について審案する。
(一) 被告らは原告らが当裁判所昭和四二年(ワ)第二二〇六号事件の被告であつた訴外小林幸子の口頭弁論終結後の承継人であると主張する。
しかして右事件はいわゆる物権的請求(被告広川良平の本件各土地に対する所有権が訴訟物となつていた)であつたと解されるので、原告らは、訴外小林幸子から本件各土地を右事件の口頭弁論終結後に買受けた者である以上、承継人として右事件の判決の既判力をうける者であることは明らかである(なお強制競売の手続で原告五味卓治が本件土地を買受けたものであるが、売主はあくまでも訴外小林幸子である)。
しかし口頭弁論終結後の承継人は確定判決の既判力をうける者として、口頭弁論終結時における前主と相手方の権利関係について確定判決の内容に抵触するような主張ができないだけであつて、その時以後に生じた新たな事実にもとづく主張はできるのである。本件において被告広川良平(当時は同人の破産管財人)が、訴外小林幸子に対して前記事件において勝訴判決を得ているけれども、それは、同被告名義の所有権取得登記を経由し対抗要件を備えてはじめて排他的効力を生ずる可能性があつたものであるにすぎない。したがつて右の同被告が本件各土地について登記を経由する前に第三者である原告五味卓治が右各土地について右事件の口頭弁論終結後において権利を取得しその登記を経由した場合には同被告は、同原告に対抗できなくなると解するのが相当である。
(二) のみならず、被告広川良平と訴外小林幸子の間には前記事実関係によると民法九四条二項を類推適用すべき関係にあつたのである。
しかして原告五味卓治は本件各土地を裁判所における強制競売手続によつて取得したものであるから、他に特段の事情のないかぎり訴外小林幸子が本件各土地について無権利者であつたことについて善意であつたと推認するのが相当であり、右の特段の事情についてこれを認めるに足る証拠はない。
そうすると被告広川良平は、原告五味卓治が本件各土地について所有権を取得したことを否定できない立場にあつたものといわなければならない。
(三) 次に被告広川良平が訴外小林幸子に対する前記確定判決にもとづき、原告らから本件各土地について所有権移転登記を経由したということは、訴外小林幸子に対する前記強制競売手続を無効にしてしまつたものということができる。
しかして本件のように強制競売手続における競落人が競落物件について真実の権利者から追奪された場合においては競落人は民法五六八条に定める手続によつて救済されるものである。しかし本件においては前記のように被告広川良平と訴外小林幸子の間には民法九四条二項が類推適用される関係にあつたものであるから、訴外宮川敏子が同小林幸子に対してなした本件各土地についての前記強制執行に対して、被告広川良平(当時は同人の破産管財人)が本件各土地が同被告の所有に属することを理由として第三者異議の訴を提起しても、同被告は訴外宮川敏子に対して勝訴できない立場にあつたと考えられるのである。けだし登記には権利推定の作用があるから、登記簿の記載を信頼して利害関係をもつに至つた第三者(本件においては訴外宮川敏子)は登記名義人である訴外小林幸子が無権利者であることについて一応善意であつたと推認するのが相当であるからである。
したがつて前記認定のような手続で被告広川良平が原告らから本件各土地について所有権移転登記を経由したということは、著しく条理に反するものがあるといわなければならない。
(四) したがつて被告広川良平は訴外小林幸子に対する当裁判所昭和四二年(ワ)第二二〇六号事件の確定判決について承継執行文を得て右判決にもとづき原告らに対して強制執行をすることはできなかつたものといわなければならない。
してみると被告広川良平が本件各土地について右の判決にもとづいて経由した各登記はいずれも無効であり、右の登記を前提とする被告小林龍夫同小林一夫の各登記もまた無効であるといわなければならない。
三、以上の次第で本件各土地は原告五味卓治が名古屋地方裁判所岡崎支部における強制競売手続によつて昭和四三年六月二七日頃所有権を取得したものというべく、これを前提とする原告らの本訴請求はすべて理由があるから正当として認容し民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
別紙
不動産目録
(一) 豊田市白山町七曲壱弐番の壱五七
一、山林 参五参・七壱平方メートル
(二) 同所同番の弐九〇
一、山林 壱〇弐・四七平方メートル
(三) 同所同番の弐九壱
一、山林 壱七八・五壱平方メートル